日本文化考察
2017.08.18 update
平安時代の通い婚では、夜が更けてから姫君の寝所に忍び込み込むのが普通のことでした。
そのため、源氏は空蝉と思い違った女性と契ってしまいます。
また、この時代、闇夜では生霊や物の怪といったものがまかり通ります。
夕顔は源氏との逢瀬の中で、枕元に現れた物の怪にとりつかれて死んでしまいます。
空蝉とは年老いた地方官の伊予の介の後妻です。
「雨夜の品定め」で中流の理想的な女性との評判で、源氏が興味を持っていた女性です。
17歳の源氏は気持ちを抑えることができずに、25歳の空蝉と契ってしまいますが、空蝉はとても後悔し、その後は拒絶し続けます。
それにもかかわらず夫の伊予の介の留守を狙って、空蝉のもとを訪れます。
夕闇の中で義理の娘の軒端の萩と楽しそうに碁を打っている空蝉の姿を垣間見ます。
夜が更けて忍び込んだ源氏は、あろうことか軒端の萩を空蝉だと思い契ってしまうのです。
実は空蝉は小袿(こうちぎ)を残して抜け出していたのでした。
現在ではとても考えられないことですが、当時は闇夜のなかでの秘めごとが当たり前だったようで、間違えたこともあったようです。
また、美人だとのうわさを聞いて忍び込んで契った後、薄あかりで見た顔が、異常に不細工だった話も後に登場します。
さてその後、源氏29歳、空蝉37歳の時に12年ぶりに「逢坂の関」で偶然にも再開することになりますが、歌を交わしただけで空蝉は夫亡き後、出家してしまいます。
源氏の良いところは、一度契った女性には最後まで責任をもって対処することです。
空蝉との契りは一回だけでしたが、仏門に入ってからも光源氏の二条東院に引き取り、静かに仏道に専心できるような環境を提供します。
七月も半ばとなれば、庭先の木々にセミの抜け殻を見つけることがあります。
まだ温かさが残っているかのようなセミの抜け殻は、残り香がほのかに漂う空蝉の薄衣のようでもあります。
・その後の軒端の萩はどうなったのでしょうか?
17歳で源氏と間違って契ってしまった軒端の萩は、源氏に心を寄せますが光源氏は受け付けません。しかし、和歌で心を通わせます。
しかし、蔵人少将と結婚して幸せに暮らします。
光源氏17歳の夏の出来事です。
五条大路の乳母のところにお見舞いに行く途中の夕方、白い夕顔の花に出会います。
優雅な姿に見とれていると、中から童女が現れ、姫君が扇に書いた和歌を源氏に手渡します。
源氏は夕顔を気に入り、素性を隠して通うようになります。
しかし、夕顔は源氏が素性を明かしたその夜に、六条あたりの廃院で逢瀬を楽しんだ後、ものの怪に襲われて死んでしまいます。
何んとこの夕顔はかつて「雨夜の品定め」で女性談義を交わした頭中将の女性で、二人の間には三歳の娘もいたのでした。
実はこの娘が玉鬘で、後に引き取り後見人となります。
源氏と出会った時、夕顔は19歳でした。
細身で、はかなくて頼りなげな夕顔は、意外にも彼女の方から扇に思いを書いた歌を源氏に贈っていました。
実は積極的だったわけです。
というのも、当時は後ろ盾がしっかりしていないと暮らし向きにも困ります。
おそらく積極的にさせたのは取り巻きたちでしょう。
夏、軒先に網を張って夕顔のツルをはわせて育てると、夕方になると大人の手のひらほどもある大きな白い花が次々と咲き、甘い香りがあたり一面を覆います。
まさに幽玄の世界ですが一夜限りの花なので、翌朝にはシワシワになった花がらが地面に落ちています。
その姿はどこか、共寝の後すぐに息絶えてしまった夕顔を想像させます。
生霊とは、嫉妬心や怨念が自分では分からない内に心の中から抜け出します。
そして、相手の女性にとりついて、死に至らせてしまいます。
六条御息所は、プライドが高く嫉妬深い女性として読み解かれることが多いのですが、実はそれだけ光源氏を愛していたということになります。
源氏17歳、六条御息所24歳で年上である上、20歳の時にはすでに夫の東宮と死別していました。
人生経験が豊富なため、必要以上に思いつめるところがあったのかもしれません。
六条御息所の生霊は夕顔だけでなく、源氏の正妻の葵の上にもとりついてしまいます。
・夕顔町
源氏物語に登場する夕顔にちなんで通称「夕顔町」と呼ばれるのが、下京区境町通り高辻下ルです。その夕顔町に「夕顔之墳」の碑が建っています。
今は個人のお宅なので自由に拝観することはできませんが、当時の雰囲気にひたることができます。
・比叡山延暦寺
比叡山延暦寺は、平安時代に建立されたお寺ですが、源氏は夕顔の四十九日の法要をこのお寺の法華堂で行いました。
夕顔の法要を行ったと言われる法華堂は、西塔にあります。
空蝉も、夕顔も中流階級の女性で、どちらも年上の女性です。
源氏は夫亡き後出家した空蝉にも礼を尽くし、物の怪に取りつかれて亡くなった夕顔の忘れ形見の玉鬘も引き取り育てます。
源氏とかかわった姫君のうち、夕顔と葵上の二人は生霊の仕業によってこの世を去りますが、その他の多くの女性は幸せをもらいます。
源氏物語を読み解くと亡くなった二人も、幸せだったのではないかとも思われます。
源氏物語は読み手によって、さまざまに解釈できるのが面白いところです。
掲載情報は2017年8月18日の更新時の情報となります。
公開時と掲載内容が異なる場合がありますので、詳細につきましては直接お問い合わせください。